研修資料とテレビドラマ、たまたまの一致
里親支援とっとり 所長 遠藤 信彦
コロナ禍のもと、多くの研修がリモートで開催されています。『専門里親※1』の更新のための研修も、普段ならば東京で行われるのですが、今年は特例で、通信教育となりました。専門里親さんと一緒に、ぼくもその課題に取り組みましたところ、とても勉強になりました。
どの課題も大事な内容でしたが、特に『子どもの権利擁護』の資料が印象的でした。子どもの権利を尊重すること、子どもが意見をあらわすこと、それを促すことの大事さが、制度や考え方を踏まえて分かりやすく説明されていました。そして、ただ分かりやすいだけに留まらず、資料の作成者と子どもとのやりとりの描写が、なんとも言えずこころに残りました。例えばこんな話です。「保護された少女の今後を考えるため、その子とずっと関係づくりをしていたのだけれど、やっと打ち解けたと思った矢先、その子が不安や怒りを爆発させた。そんな時『子どもシェルター※2』の生活スタッフより『先生、この子のペットを預かってあげてください』と頼まれた。わたしは生き物をあずかることはできないのだが、よく聞くとそれはインターネット上のペットだった。シェルターではスマートフォンなどを預かるため、その子が保護されている間、誰もそのペットに餌をあげることができず、いずれは死んでしまう。そういったことなら、ということでペットをあずかり、少女の代わりに世話をした。私は、その少女が今後、家に戻るのか、施設に入所するのかといったことで頭がいっぱいで、インターネットのペットのことなど聞き流していたのだ。
ペットの世話だけが原因ではないのだが、少女はその後、落ち着きを取り戻し、自分の将来を見据えることができた。誰にも相談できず苦しい想いを抱えていたその少女の、唯一のこころの支えがそのペットだったのかもしれない。わたしの立場では全くその発想にいたらなかった。生活スタッフの気づきというのはやはりすごいのだなと感じた」といった感じです。描写のはしばしに、子どもたちに向けられる温かなまなざしを感じましたので、一体どんな方がこの資料を作ったのだろうと思いましたら、意外にも弁護士さんでした。東京の弁護士さんの集まりで子どもシェルターを立ち上げられたそうで、保護された子どもには担当の弁護士がつくそうで、このペットの話は、保護された子どもと担当弁護士のエピソードでした。
専門里親課題をこなした後日、たまたま、深夜に放送されていた『さくらの親子丼2』というドラマを見ました。子どもシェルターで、保護された子どもたちにおいしいごはんを提供している食事スタッフの女性の姿を描いたドラマです。たまたま見たシーンは、主人公が、子どもたちに精一杯向き合っているのに、すぐすぐには信用が得られず、ことばが届かず、トラブルが起きてしまい、悔し泣きをして地団駄を踏んでいるシーンでした。テレビドラマのあらすじというのはたいてい、娯楽として成り立つよういろいろと脚色してあるものですが、子どもたちのことばのはしばしに、えらくリアリティーを感じましたので、一体どこに取材されたのだろう、もしや、と思い調べましたら、取材先のひとつに、先ほどの專門里親課題を作成した弁護士さんたちの事務所がありました。脚本を書いたのは、『金八先生』の最後の方のシリーズを書いた、福祉事務所のケースワーカーの経験がある脚本家さんでした。以前に子どもシェルターを取材した時、是非この取り組みを世間に知らしめたいと思い、長い期間企画をあたため、ドラマ化にこぎつけたそうです。
里親さんと勉強するのも良いことがあります。ぼくたちのいる児童養護の分野だけでなく、弁護士さんも、脚本家さんも、子どもたちの最善の利益のために、それぞれの立場で尽力していらっしゃいます。このことをいまさらながらに知り、勇気が湧くとともに、自分ももっとがんばらなくっちゃ、と思った、たまたまの一致でした。
※1 專門里親
虐待された児童や非行等の問題を有する児童、及び身体障害児や知的障害児など、一定の専門的ケアを必要とする児童を養育する里親。登録時、更新時に専門的な研修を受ける。
※2 子どもシェルター
さまざまな事情で、家庭などで、安全に暮らすことができず居場所がないと感じている子どもが緊急で避難することができる施設。
2020.12.08