理解と共感と言うけれど【中編】
里親支援とっとり 所長 遠藤 信彦
われわれの分野では、支援者は、よく『子どもの育ちとつまずきへの理解』とか、『想いへの共感』といったことを促されます。理解・共感など、漢字の熟語にすると、とても耳触りが良く素晴らしいことばですが、本質をとらえるのは、なまなかのことではありません。
先日、自閉スペクトラム症支援の専門家である、川崎医療福祉大学の重松孝治先生を講師に迎え、発達につまずきのある子どもへの支援について、オンラインスキルアップ研修を行いました。大きな学びがあったのはもちろんのこと、受講した里親さんと、その家庭の里子さんのご様子や、エピソードに感じ入るところがありました。事前と事後に勉強したことも含め、ほんのかけらだけ、理解し、共感できたように思います。
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発達のつまずきを持つ子どもは、他の子であればすぐに難なくできる一部の行動が、とても苦手であったり、とてつもない集中が必要であったりするとのことです。そして、他のことは難なくできることから、「なんでこんなことができないの?怠けているの?」と思われがちであるとのことです。
「他の子であれば40分集中できることでも、その子は5分しか集中できないとします。でもその子はその5分をふんばってがんばっている。40分やりなさい、というのは、われわれが『じゃあ今日から8倍の時間働いてください』と言われるのと同じです。もし5分を8分に伸びせたのなら、すごいことだと思い切り褒めてあげてください」という助言がありました。ある里親さんのおうちでは、里親さんがオンライン研修などに参加するとき、長時間一人で過ごすことができず、里子さんのかわいらしいお顔がいつも画面いっぱいに登場します。しかしこの日は講義が終わるまで一人遊びをして待ってくれました。里親さんはすかさずしっかりお礼を伝え、褒めたそうです。この里親さんは、養育経験こそベテランでは無いものの、われわれや、さまざまな研修講師のことばを、スポンジのように吸収し、即実行されます。里子さんのがんばりを、すぐさま理解されたのですね。その姿勢に、ほんとうに頭が下がります。
別のご家庭の、登校しぶりがある里子さんについての相談に対して講師は「ふんばってがんばって学校に通っている状態であれば、それ以上がんばれというのは酷です。給食メニューが嫌なのか、友人関係に困っているのか、本当にいやなことを聞くことが先です。本当にいやな給食メニューがあるのであれば、その日は休んだってかまわないのではないでしょうか。誰か、その子が話したいと思う、正味の話ができる方が、ほんとうの気持ちを聞いて差し上げてください」と助言されました。
里親さんのかたわらで、その子が講義を聞いていました。いつもの調子であれば「いつまでほったらかすんだ!」とか「勝手にぼくのことを相談しないで!」といった具合にぐずりそうなものなのに、この日に限っては、講師の助言に対し「そうだそうだ!ぼくはそうしてほしいんだ!」と答えていました。講師を、自分の代弁者として認めたのでしょうか。微笑ましくも、子どもが子ども自身の権利の主体であるということについて、あらためて教えられ、背筋が伸びる思いでした。
(後編に続きます)
(この文章は、鳥取こども学園発行学園だより50号里親支援とっとりコーナーに掲載されたものの原文です
2022.01.05