ボツテーマ 『子どもの文化から子どもの心を知る~子どもが夢中になるマンガ・アニメのひみつ』
里親支援とっとり 所長 遠藤 信彦
来年度、鳥取県で行う中国地区里親大会の、基調講演・分科会テーマ選定のため、里親会役員が熱心な討論を行いました。今、里親さんが実際に学びたいこと、今、旬な話題に主眼を置き、たくさんの魅力的なアイデアが生まれました。最終的に5つまで絞り込みましたので、惜しくもボツとなった名案が多々あります。
ボツ案のひとつに『子どもの文化から子どもの心を知る~子どもが夢中になるマンガ・アニメのひみつ』というものがあります。ボツですのでもちろん仮題なのですが、もともとが「ところで、うちの子どもが一生懸命『週刊少年なんとか』の『鬼滅のなんとか』を読んでいるのだけど、そんなにおもしろいの?うちでは毎週ホームで一冊買って、子ども6人みんなで回し読みをしているわ」といったおしゃべりからの流れです。役員さんは、30代から70代と、幅広い年齢で構成される男女なのですが、「若いときは○○に熱中した!」「月刊誌少女○○が私の青春だった!」などなど、勉強のためのテーマ選定から大きく脱線して盛り上がりました。「北栄町ゆかり、名探偵コナンの青山剛昌先生に講義をお願いしよう!」という遠大な案も出ましたが、先生はきっと多忙を極めていらっしゃるだろうということでボツになりました。
マンガやアニメの文化から現代の子どものこころを推察するというテーマは、文学的な研究にとどまらず、心理学的・教育学的にも深く研究されています。近県の大学のある教授は、思春期の子どもの心と、異世界の物語との関係を掘り下げています。例えば、宮崎駿作品では、子ども時代の自分との精神的な別れが暗に描かれているそうです。
子どもが、好きな作品やキャラクターについて話すことばには、たびたびハッとさせられます。これまで何度も、するどい感受性におどろかされ、深い思慮に感心させられました。
『ガンダムが好きな人に悪い人はいない』と言った男の子がいました。実際には、ガンダムが好きな人の中にも悪人はいるのでしょうが、綿密に設定された空想の宇宙世紀を舞台に繰り広げられる青春群像と、造形美あふれるロボットの活劇について、熱心に討論できる同好の士は、その子にとって何物にも代えがたい存在なのかもしれません。
ある女の子は、ある作品の、残虐非道の限りを尽くす敵の総大将のことを「かっこいい!いちばん好き!」と言っていました。確かに、ひときわ強くてスタイリッシュではありますが。。。また他の女子からは『好きな敵役は誰ですか?』と聞かれたこともあります。幼少であれば、おおむね正義の味方を好むものでしょうが、思春期ともなると、登場人物それぞれの立場に想いをはせることで、時には、敵役の心情にこそ共感することがあるのでしょうか。世の中は、単純な勧善懲悪だけで割り切れないことを、未成熟なこころで悟るのでしょうか。
成長期に良質なメディアを鑑賞し、人の心の機微にふれることは、豊かな人間性を育むと言われています。名作に出会うことは、人生観を変えることもあります。ぼくの今の業務上では、なかなか機会が無いのですが、いつかまた子どもたちと、好きな作品について熱心に討論したいものです。
2020.10.30