夏になると見たい映画
初夏の風が心地よく吹き、あじさいの花が芽吹いています。梅雨さえ乗り越えれば、夏はもう、すぐそこです。せっかく四季の折々を感じることができる日本に生まれたのですから、こども達には、さんさんと輝く太陽のもと、色鮮やかな夏を体いっぱいに味わってほしいと思います。
と、言いながら矛盾していますが、夏が来ると必ず、部屋に閉じこもって、集中してみたい映画があります。細田守監督のアニメ映画「サマーウォーズ」です。
インターネットによる仮想空間が、現代よりもっと発展している世界で起こった大規模なサイバーテロに、日本の片田舎の一族が結束して立ち向かうという物語です。デジタルな仮想空間と、夏の太陽に照らされる田舎町が交互に描かれますが、強烈なコントラストを生んでいます。また、インターネットを介した世界中の人たちとのふれあいと、血縁者、ご近所さん、学校の仲間との、生身のふれあいの対比も印象的です。そして、その両方の素晴らしさが見事に表現されています。
好きなシーンをあげれば枚挙にいとまがないのですが、かろうじてネタバレでないところであると、ネット上のパニックに際して、かくしゃくとして威厳のあるひいおばあちゃんが、事態の収拾を依頼するため知り合いに電話をかけるところです。「そんな昔のことをお云いでないよ、水に流して」とか「あの時の恩を忘れたとは言わせないよ」とか「そこをなんとか私の顔に免じて」など言ってほうぼうにかけあうのですが、コンピューターとインターネット全盛の世界で、スマートフォンをはじめ、暮らしのすみずみまでIT技術が行き届いているのに、ひいおばあちゃんが使うのは紙のアドレス帳と黒電話であるのが、すこぶる格好良いのです。
息もつかせぬダイナミックな展開もさることながら、老若男女の登場人物の表情や仕草が、とても繊細に描かれています。一族が戦いに臨む真剣なとき、赤ちゃんも一緒に難しい顔をしていて、ちょっと笑ってしまいます。「アニメーション」という言葉は、絵に魂を吹き込むという意味だそうですが、正に、キャラクターのひとりひとりが活き活きと躍動しており、ついつい感情移入してしまう、このあたりも世界的ヒットに至った理由だと思います。
せっかく、世界に誇る芸術メディアを生み出す日本に生まれたのですから、こども達には、みずみずしい夏景色を感じる、日本産の優良メディア作品を楽しんでほしいと思います。
※画像は細田守監督スタジオ地図より公式配布されたものです。
2024.06.26