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第17回 「社会福祉法改正、児童福祉法改正に想う」 法人常務理事 藤野興一
~「子どもの権利・人権」を柱に据えた子育ての推進を~①2014年、子どもの権利条約採択25周年、日本国批准20周年を記念して「ヤヌシュコルチャックの足跡を訪ねる旅」を企画、ポーランドの首都ワルシャワを訪問しました。今年も7月11日(月)~18(月)の日程で第2回の旅を企画しました。前回のコースにアウシュビッツを加えたコースにしたのですが、団長を務めることにしていた私は、直前に入院が決まり参加することができませんでした。残念でなりません。一行は7月18日無事帰国、その様子はポーランド政府の公式ホームページで見ることができます。ポーランド子どもの権利庁ブログ
②子どもの権利条約は、第一次、第二次大戦のような悲劇を二度と繰り返さないために、未来を担う子どもたちの「生きる権利」「育つ権利」「守られる権利」「参加する権利」を中心に、子どもを権利行使の主体者とすることとした国際条約です。1978年コルチャックの実践を基にしてポーランドから提案されました。ゲットーに閉じ込められ、200人の孤児たちを養い、その中で、子どもたち自身による裁判所、子ども議会、子どもが決めた法律を作り、子どもは大人と同じ尊厳を持った人間であり大人の所有物ではないことを実践しました。そしてコルチャックと孤児院職員は、人間の尊厳を守り抜くために、200人の孤児たちとトレブリンカ殺人工場に消えたのです。アンジェイワイダ監督の映画「コルチャック先生」に克明に描かれています。③2016年5月27日、「改正児童福祉法」が成立。1994年日本が「子どもの権利条約」を批准して以降初めて、日本の法律に、「健やかな養育を受ける権利」、「子どもの権利」、「子どもの最善の利益」等が規定された意義は大きく、感慨深いものがあります。法成立を受けて厚生労働省は、4つの検討委員会設置を決定。「社会的養護の課題と将来像(以下「課題と将来像」)」の再検討も含めて動き出しています。
その第一は、「児童虐待対応における司法関与及び特別養子縁組制度の利用促進の在り方に関する検討会」。第二は、「新たな社会的養育の在り方についての検討会」。第三は、「子ども家庭福祉人材の専門性向上のための検討会」。第四は、「市区町村の支援業務の在り方のための検討会」。となっています。④「家庭的養護推進計画」「都道府県推進計画」は「3期・15年計画」の2年目を迎えています。「課題と将来像」は、現場実践の中で常に改革されねばなりません。この度の児童福祉法の改正を踏まえて、改めて「子どもの権利」の視点から施策の再構成が必要です。「検討会」が、それに応えるものとなることを願ってやみません。
「子どもは人間である」と叫び続けて200人の孤児と共に強制収容所に消えたコルチャックの実践から生まれた「子どもの権利条約」を施設内外で普及し、日本の社会的養護実践に活かしたいと思うのです。⑤そのような中で、2016年7月26日未明、相模原障がい者施設殺傷事件が起きました。神奈川県相模原市の障がい者施設「津久井やまゆり園」に男が侵入し、入所者である障がい者(主に知的障がいおよび知的障がいとの重複障がい)19人を刺殺、26人に重軽傷を負わせた男・U容疑者(26歳)は、その施設の元職員だったとのこと。U容疑者は、「障がい者は抹殺されるべき」という考え方を抱いており、その思いを文書化して衆議院議長に示そうとし、「ヒットラーが降りてきた。」とも言ったとのこと。障がい者を標的にした『ヘイトクライム(憎悪犯罪)』(沖縄タイムズ)です。
⑥1939年ナチスドイツとソ連軍のポーランド侵攻・ポーランド分割支配以降、ドイツ領となったオシフェンチム市にアウシュビッツ・ビルケナウ強制収容所、ワルシャワ近郊にトレブリンカ強制収容所などを建設。障がい者、政治犯、ロマ(ジプシー)、ユダヤ人を次々と大量に移送し、障がい者抹殺のために開発された毒ガス(チクロンB等)により、殺害された人数については、『ホロコースト百科事典』が各国の専門家の統計を合計し、559万5千人から586万人という数字をあげています。第一回、第二回ポーランドの旅を通じて私たちは本当に多くのことをこの肌身で学んだばかりです。
⑦私は、「相模原障がい者施設殺傷事件」を「異常な精神障がい者による特異な事件」としてはならないと思います。石原慎太郎は、都知事に就任した1999年に障がい者施設を訪問した際、「ああいう人ってのは人格があるのかね」、「絶対よくならない、自分が誰だかわからない、人間として生まれてきたけれどああいう障がいで、・・・」、「おそらく西洋人なんか切り捨ててしまうんじゃないか」、「安楽死につながるんじゃないか」と言い放っています。U容疑者の言っていることと大差ない。舛添前都知事のセコイ問題よりもこの方がもっと都知事としての資質を問われるべきであったが、当時さして問題視されず、その後4期13年にわたって都民は石原を都知事に選び続けたのです。
⑧「障がい者は生きていても意味がない」「障がい者は迷惑だ」「障がい者には税金がかかる」などという主張は、重度障がい者を本当に抹殺していったナチスドイツの優生学的思想と同じものです。今日本でもインターネット上に「障がい者不要論」が跋扈し、「在特会のアパルトヘイト」が公然と大音響街宣車を流し、西欧諸国でも難民受け入れ拒否が叫ばれ、ネオナチ党などのファシズムが台頭しています。「相模原障がい者施設殺傷事件」は、そのような社会的状況の中で醸成されたものなのです。
⑨子どもたちに関わる私たちは、戦後71年目を迎えて今一度、歴史を振り返り2度と戦争を繰り返さない平和への決意を固めねばなりません。そのためにも、子どもの権利条約を日本に定着させ子どもの権利・人権を柱に据えた子育て文化を培っていきたいと願うものです。
「わたしは神が宣言なさるのを聞きます。主は平和を宣言されます。ご自分の民に 主の慈しみに生きる人々に 彼らが愚かなふるまいに戻らないように。主を畏れる人に救いは近く 栄光はわたしたちの地にとどまるでしょう。
慈しみとまことは出会い 正義と平和は口づけし まことは地から萌えいで正義は天から注がれます。主は必ず良いものをお与えになり わたしたちの地は実りをもたらします。正義は御前を行き 主の進まれる道を備えます。」(詩編85-9~14)鳥取こども学園常務理事・園長 藤野興一
2016.08.10
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第16回 「中国地区里親大会を終えて」里親支援とっとり 吉田 信彦
去る平成28年5月28日から29日に、米子全日空ホテルにおいて、第63回中国地区里親大会を開催しました。200人強の方が参加され、盛会のうちに終了しました。この大会は、中国地区の里親と関係者が一堂に会して、養育の問題や里親制度の現状などの議論と研修を行うものです。里親支援とっとりは、鳥取県里親会事務局として大会を運営しました。
基調となる講演では、子育て王国のリーダーとして、平井知事に里親への想いを語っていただきました。観光から子どもの施策にいたるまで、鳥取県の取り組みを大変テンポよく、また、お得意のダジャレも交えてお話いただきました。鳥取県のトップが児童福祉についてしっかりとお話下さる姿に感慨ひとしおでした。
また、鳥取短期大学・鳥取看護大学山田修平理事長に「命の呼応~人を育む、自分を育む~」と題して御講演をいただきました。
先人たちのことばを引用され、大変にエネルギッシュで示唆に富んだお話は、里親養育に携わる方々にとって大きな学びとなったと思います。懇親会では、伯耆町の鬼面太鼓振興会さんなどが、大変に盛り上げて下さり、中国五県の里親並びに里親の支援者が、多いに親睦を深めました。
各分科会は、今と未来の問題を取り上げ企画しました。
分科会①は「社会的養護の両輪となって~児童福祉施設と里親との連携~」
施設と里親の相互理解と連携のあるべき姿について語り合いました。それぞれの立場の方から盛んに発言があり、熱い意見交換となりました。分科会②は「実際どうなの!?お金の話」という企画
ファイナンシャルプランナーの方を助言者にお迎えし、措置費制度が対象としない経費などについて意見交換しました。「子どもの育ちに対して、どういったお金が必要なのか。今後、子どもが自立して社会に羽ばたいていくにあたり、経済観念をどうやって教えていくのか」ということなどについて、熱心なディスカッションが行われました。分科会③は「しっかりご存知?発達障がい」
山陰労災病院長大野耕策医師を助言者にお迎えし、発達障がいの最新の情報を提供していただき、養育上の悩みにお答えいただきました。大野先生のお人柄どおり、優しく、わかりやすくお話いただき、参加者から大変に勉強になったとの声を多く聞きました。分科会④は「施設と里親どっちがすごい!?」
どんな子どもがどんな時に、里親に、又は施設に委託されるべきか討論しました。ディベートの手法を取り入れ、鳥取県里親会東部部会長の藤田里父と、鳥取こども学園竹下里親支援専門相談員がテンポよく進行し、参加者から「まだ話し足りない!」という声があがるほどの盛り上がりでした。
多くの方のご支援をいただき、参加された方たちに、実りある学びを提供することができたと思います。また、運営した里親会員と、運営協力して下さった行政・児童福祉施設職員の方々とのパートナーシップも、更に深まったと思います。参加された方々、運営した側双方が、大変にエンパワーメントされたのではないかと、手前味噌ながら感じた、そんな大会でした。御参加いただいた中国地区の里親の皆様、関係機関の皆様、鳥取県内の里親・関係機関の皆様 ありがとうございました。
2016.06.17
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第15回 『新年を迎えて 皆様へのメッセージ』 法人常務理事 藤野興一
謹 賀 新 年
「いと高きところには栄光、神にあれ、地には平和、御心にかなう人にあれ。」(ルカ:2-14)
神様に守られ生かされて、新年を迎えられますことに感謝申し上げ、皆様の格別のご支援に心からお礼申し上げます。学園にたどり着く子どもたちも厳しい道をけなげに生きています。歴史の未来である子どもたちに真っ赤に燃える太陽のように輝いて歩んでほしいといつも祈ります。
しかし、私たち大人の非力を痛感します。私たち自身が輝いて生き、子どもたちに生まれてきてよかったと思える世界を残したいと切に願います。
一期二年の二期目を迎えている全国児童養護施設協議会会長の活動も、お蔭様で2015年4月から、あまりにも低すぎた施設最低基準を「社会的養護の課題と将来像」のレベルにまで引き上げることが出来ました。ご支援いただいた関係各位に心よりお礼申し上げます。40年振りに大幅な職員配置増の予算が付いたとは言え、70万人の保育士不足と言われる現状では、人材確保困難に遭遇し、児童虐待の増加や子育ての行き詰まりに対応できず、人材育成と施設養育の質的強化が緊急課題となっています。
2015年度を初年度とする「社会的養護の課題と将来像(以下「課題と将来像」)」実現に向けた歩みを確かなものにしたいと願います。しかし私は、「乳児院をはじめとする施設は悪で、里親が善である。一刻も早く施設から子どもを救出して里親や養子縁組を進めるべきだ。施設は金がかかりすぎ、里親は安くつく。」という論調が声高に叫ばれ、一部の学者も含めて政治的働きかけも行われ、勢いを増していることに危機感を覚えています。「施設内虐待」も多く語られていますが、児童養護施設に29,000人、乳児院に3,000人、里親に4,000人が措置されていて、里親家庭での虐待死事件と施設での虐待死事件を比べても里親の方が数的にも多いのです。こんな議論はしたくありませんが、施設に金をかけなさすぎたので施設での人権侵害を生み出してきたのであり、虐待や貧困の連鎖を断ち切るためにももっと社会的養護に税金を投入すべきなのです。「課題と将来像」は国連の子どもの権利委員会からの3度に渡る日本政府への勧告を受け、施設と里親と連携して子どもたちを社会で守り抜く体制を作ろうとする国としての計画です。
今、社会的養護を必要としている子どもたちは戦災孤児の時代と違い、90%以上の子どもたちに親がいます。どんなにひどい虐待を受けた子どもでも、親に対して「いい子になるから迎えに来てね」と言い、子どもは親を求めて止まないのです。児童虐待への対応は親への支援が欠かせません。施設や里親は子どもを預かって育てるだけではなく、児童虐待予防も含む地域児童福祉の拠点としての役割が新たに求められています。
戦後70年、児童養護施設は戦災孤児の保護・収容から始まり、ベビーブームの頃には乳幼児を、「非行」がピークの頃には「非行少年」たちを、不登校や引きこもりが社会問題化すれば不登校児童を、今は被虐待児や発達障害児が社会問題化しており、その受け皿となっています。多くの児童養護施設は、戦後70年、社会的養護を担い続け、地域児童家庭支援・社会的養護実践における多くのノウハウを蓄積してきたと自負しています。
施設は里親育成支援の役割を果たしうるし、手厚い里親支援がないままに施設をつぶして里親へ移行せよとする主張は無謀であり危険です。大舎であろうが小舎であろうが里親であろうが養子縁組であろうが子どもの人権は守られねばならないのです。今、子どもたちの人権は学校でも施設でも地域でも家庭でも極めて危機的状況にあるのです。施設に繋がっている子どもはまだマシで、地域に放置されている子どもたちがもっとピンチだと言わねばなりません。
2016年が日本の社会的養護にとって新しい地平を切り開く年となりますよう共に歩みたいものです。今年110周年を迎える鳥取こども学園はキリスト教社会事業の献身性と先駆性を掲げてその先頭に立って歩みたいと思います。2016年 元旦
社会福祉法人鳥取こども学園常務理事・園長(全国児童養護施設協議会会長) 藤野興一
2016.01.01