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第72回🌼『君の名は・・・』🏠児童養護施設 鳥取こども学園 副園長 田村 千亜紀
「なんでホームは花の名前だ?」
地域小規模児童養護施設『たんぽぽ』で暮らすQ君が帰りの車中、唐突にそう聞いてきた。その声はなんとなく不満げだ。
「『あかり』って誰が名前つけた?」
なるほど。そういえばさっき『あかり』で暮らす幼児さんたちを追い越しながら手を振ったっけ。高学年男子は自分の暮らす『たんぽぽ』のかわいらしい名前に少し引っかかったようだ。
それぞれの事情を抱える子どもたちが暮らす家(ホーム)に玄関はあるけれど表札はない。本園ホームにはホーム名の看板?は出ているが地域小規模児童養護施設は見た目はごくごく普通の民家である。
本園『ふじ』『ひまわり』『こすもす』『つくし』(一時養育ホーム『はちみつ』)
本園の入所ホームには草花の名前が付いている。特に歴史の長い『ふじ』『ひまわり』、まだ歴史の浅い『こすもす』『つくし』。いずれも四季折々の中で一度は目にしたことがある親しみやすく愛らしい草花だ。音もやわらかい。だからこそ小さな子どもでもおぼえやすいし呼びやすいだろう。なおかつ、それぞれの草花の持つ素朴なイメージ、しなやかさや明るさ可憐さやまっすぐさなどは容易に想像ができ、昔も今もホームの名前に頭をひねった方々の思いやりと願いをその背後に感じることができる。
地域小規模児童養護施設『いろどり』『あかり』『かつらぎ』『たんぽぽ』
『いろどり』は鳥取こども学園初の地域小規模児童養護施設。園内で募集して、あるミュージシャンの楽曲にインスパイアされたこの美しい名前に決まった。とりどりの個性が彩るさもないけれど確かな日常がイメージされている。
『あかり』はスタートメンバーの大人と子どもが一緒に考えた名前。家を照らすあかりであり、家を出た子どもたちの未来を照らすあかりであり、いつでも帰って来られるように灯されたあかりでもある。
『かつらぎ』は本園から一番離れていて、唯一小中学校区が違う地域にある。だからこそ、地域にしっかりと根を下ろし愛されるようにと願いを込めて地域名がそのままひらがな表記されている。奇をてらわずわかりやすい、伝わりやすさでいえばピカイチの響きのいい名前だ。
そして『たんぽぽ』。地域に出て3年目で新参だが、実は一番の古参でもある。『いろどり』『あかり』『かつらぎ』は新設された地域小規模児童養護施設だが、『たんぽぽ』はもともと本園にあったホームがそのまま地域に引っ越した。だから古くて新しいのが『たんぽぽ』。名前のイメージ通り、小粒だけれどたくましく明るいそんなホームだ。『たんぽぽ』と名付けた人のあたたかさが時を超えて伝わってくる。
少し不満げなQ君のご機嫌を伺いながら言葉を返す、
「『あかり』はSさんに聞いたらわかるかな。『たんぽぽ』の名前を付けたのは誰かなぁ園長に聞いたらわかるかなぁ・・・昔々の園長かなぁ・・・。実はねQ君『たんぽぽ』は学園の中でもずーーーっと昔からある歴史のながーーーいホームなんだよ」
と、重々しく答えるとQ君の目がきらりと光った(ように思う、実際の私はハンドルを握って前を向いていたが)
「え?そうなん??マジで???」
先ほどの不満げな声が一瞬にして明るさを帯びた。どうやらQ君は私の返答のどこかにポジティブ要素を見出してくれたようだ。あぁよかった、きっかけは何であれホームにもその名前にも愛着を持ってくれたらうれしい。
“名前はその人のためだけに用意された 美しい祈り”
“祈りは身体の一部に変わり その人となった”(毛里武作「名前は祈り」より)
だから今日も心を込めて呼びたい、たんぽぽのQくん、と。
2025.02.28
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第71回🎄『次なる養育者へのバトン』🎅乳児院 鳥取こども学園乳児部 副院長 渡 美由紀
「幼い子どものゆたかな育ち」応援助成事業により今年も6人の幼児の七五三のお祝いを実施することができています。
この事業は、株式会社ストームレーベルズ(レコード・映画制作会社)からの寄付をもとに、社会的養護施設等(乳児院、里親家庭、ファミリーホーム)で生活する児童のゆたかな育ちを応援することを目的として、子どもたち一人ひとりが成長後、自らの生い立ちをたどることができ、自らの糧として社会的養護施設等での育みをふりかえることができるよう、七五三のお祝い費用の一部を助成してくださる事業です。ちなみに株式会社ストームレーベルズはご存じの方もいらっしゃるとは思いますが、嵐、SUPER EIGHT、KAT-TUN、Hey!Say!JUMP、なにわ男子が所属するレコード会社です。このような取り組みもされているとは、まさに感謝カンゲキ雨嵐です!!(笑)
毎年この事業の案内が来ると対象の児童をピックアップし、フォトスタジオでの撮影日と神社に参拝する日を保護者と打ち合わせます。今までの子どもたちはフォトスタジオでの撮影で緊張して固まったり、泣き出したりしてしまう子どもが多かったのですが、今年の子どもたちは違います。さすが現代っ子!! 写真慣れしており、すぐにカメラマンのお姉さんにも慣れてポーズを取り、笑顔が溢れます。自分からポーズを決めて「撮って」と言う子まで・・・。
そんな素敵な写真が納められたアルバムが先日手元にやってきて皆にお披露目されました。「かっこいいでしょ」「これ○○くんだで」と鳥取弁丸出しの得意顔で教えてくれます。衣装も和装と洋装があり、子どもたちが自分で「〇色のがいい」と着たいものを選んだそうです。また、神社への参拝時もウロウロすることなくじっと座って神妙に祝詞を聞くことができたというエピソードに写真を見ながら「大きくなったなあ」と感慨深く、目頭が熱くなりました。
このような貴重な機会をいただき心より感謝申し上げます。この七五三のアルバムは子どもたちの大切な成長の記録の1ページとなり、乳児部を巣立つ際に次なる養育者へのバトンのひとつとして繋いでいきたいと思います。
追記:前回の私のリレーブログ(2022年10月26日寄稿)でご紹介した「さつまいも」の行く末ですが・・・(覚えていらっしゃる方はいないかもしれませんが・・・)
新しい年を迎えた頃には姿はなく、どこかへ旅立っており・・・私は見届けることができませんでした・・・残念!!鳥取こども学園乳児部では、Amazonの「乳児院支援プログラム」に2023年11月1日より参加しております。
以下、全国乳児福祉協議会会長のメッセージ抜粋になります。この度、アマゾンジャパン合同会社と「乳児院支援プログラム」を立ち上げることとなりました。Amazon.co.jpの「ほしい物リスト」に、子どもたちに必要なものを載せることによって、Amazon.co.jp利用者の方々がそのリストをご覧になり、ご賛同いただいた方々からご支援いただけるというAmazonならではの仕組みです。この取り組みを通じた支援によって、乳児院で生活する子ども一人ひとりの成長に向けた安全で豊かな環境の整備と養育につながっていくことを期待しています。またより多くの方が乳児院を知っていただくキッカケきっかけとなると大変嬉しいです。家族と離れて暮らす子どもたち一人ひとりが安心・安全な生活を送るために、みなさまよりあたたかい
ご支援を賜りますようお願い申しあげます。
2024.12.18
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第70回 😌『伝えるために大切にしていること』😌 児童心理治療施設 鳥取こども学園希望館 館長 水野 壮一
衆院選挙があったので、ネットで政治に関する記事を読む機会が多かった。ある日、スマホで記事をスクロールしていくと「投票マッチング」なるサイトが表示された。「あなたが投票すべき政党が分かりますよ」というサイトらしい。
票を入れない政党は決まっているが、入れたい政党が見つからない「ほぼ無党派層」の私なので、さっそく興味本位でサイトを開いてみた。エネルギー政策、憲法改正、少子化対策などにまつわる質問が次々と表示され、回答を選びタップしていく。20問以上設問があるのだが、興味本位で始めたため徐々に億劫になって回答が適当になる。「政策金利?よく分からん!」などと呟きながら回答を入力し終えると、マッチング結果に「あなたの考えとマッチしたのは○○党です!」と自分では入れないと決めている党が表示され驚いた。(おそらくテキトーに回答したからだ)驚くと同時になんだか小馬鹿にされたような気になって、思わず「お前にわしの何が分かるんじゃ」とスマホに小声で文句を言ってみる。
ふと、「前もこんな気持ちになったな…」と記憶がよみがえる。
ネットで流行った性格診断。自分の性格が分かり、仕事や生活に活かせるとのことだったが、「飽きっぽくてお調子者。しかも無駄に繊細で傷つきやすい」などと何の役にも立たない診断結果を表示するスマホに文句を言った。大学生の時に受けた職業適性検査では「営業職に向いている。福祉従事者として適正は低い」と示されカチンときた覚えがある。(適性検査結果を知った大学の就職課には、ずいぶん心配された)自動車学校で受けた運転適性テストでは「気性が荒く事故を起こしやすい」と出て、「気性まで聞いてないんじゃ!」と荒ぶった気がする。共通するのは顔が見えず感情を持たないものに、自分のことを分かったように示されるのが苦手だということ。(もちろんデータ集積や研究によってある程度の信憑性があることは理解しているが)振り返って「自分自身はどうだろう?」と考えてしまう。人と人が向き合って悩みや喜びを分かち合あう学園・希望館において、子どもや職員さんに色々と伝える機会が多いからだ。
例えば「あなたの長所/短所は○○だね」と示したり「してください/しないでください」と求めたり、「本当にこのままで大丈夫?」と予測や心配を伝え、アイデアを出したりすることがしばしばある。きっと「水野さんに何が分かるの?」とか「あなたには言われたくない!」という感情を抱く人もいるだろう。
相手に示し、求め、理解を得るには、誠意とデリカシーが大切だと痛感する。デジタルなネット診断などとは違い、私たちは目を合わせ、声を響かせて伝え合えることが強みである。そして、相手の立場や心情に寄り添い、謙虚で丁寧であることが大切だと考える。正論・正解であっても、伝え方を間違えて相手にドン引きされては意味が無いのだ。その一方で、これは容易ではないことも多くの経験から学んできた。人に何かを伝えるときに、いつも思い出す聖書の一節がある。
マタイによる福音書7:1~6
人を裁くな。あなたがたも裁かれないようにするためである。あなたがたは、自分の裁く裁きで裁かれ、自分の量る秤で量り与えられる。
あなたは、兄弟の目にあるおが屑は見えるのに、なぜ自分の目の中の丸太に気づかないのか。兄弟に向かって、『あなたの目からおが屑を取らせてください』と、どうして言えようか。自分の目に丸太があるではないか。
偽善者よ、まず自分の目から丸太を取り除け。そうすれば、はっきり見えるようになって、兄弟の目からおが屑を取り除くことができる。何度読んでも「その通りだ」と強く思う。そして「でも、難しいことだなぁ」という感情が沸き上がる。「心がけ」程度の軽いものではなく、「生き方」とする必要があるのだと考える。(だから聖書に書いてあるのだろう)
そんなことを色々と考えながら投票日を迎えた。投票所に着いた瞬間に「投票所入場券」を忘れたことに気付き「あっ!」と焦っていると、柔和な受け付けの人達が「大丈夫ですよ」と選挙人名簿を確認して投票用紙を渡して下さった。対応してくれた人たちは優しく誠実で、わすれんぼうの私におが屑も丸太も無く助けてくれたことに感謝した。
そして、自分で考えて選んだ政党に投票した。
2024.12.02