第21回「2019年の年頭に当たりご挨拶申し上げます」 理事長 藤野興一
「いと高きところには栄光、神にあれ、地には平和、御心にかなう人にあれ。」
(ルカ:2-14)
「たとえ、人々の異言、天使たちの異言を語ろうとも、愛がなければ、わたしは騒がしいドラ、やかましいシンバル。たとえ、予言する賜物を持ち、あらゆる神秘とあらゆる知識に通じていようとも、たとえ、山を動かすほどの完全な信仰を持っていようとも、愛がなければ、無に等しい。全財産を貧しい人々のために使い尽くそうとも、誇ろうとしてわが身を死に引き渡そうとも、愛がなければ、わたしに何の益もない。愛は忍耐強い。愛は情け深い。ねたまない。愛は自慢せず、高ぶらない。礼を失せず、自分の利益を求めず、いらだたず、恨みを抱かない。不義を喜ばず。真実を喜ぶ。すべてを忍び、すべてを信じ、すべてを望み、すべてに耐える。愛は決して滅びない。・・・・・・・・・・それゆえ、信仰と希望と愛、この三つは、いつまでも残る。そのなかで最も大いなるものは、愛である。」
(コリントの信徒への手紙 一 第13章1~13)
①神様に守られ、生かされ、多くの人々に支えられて、子どもたちと共に2019年の新年を迎えられましたことに 心より感謝申し上げます。鳥取こども学園は、1906(明治39)年1月13日創立以来、幾多の風雪を経ながらも、無事戦後73年、113年目の新年を迎えることが出来ました。
②今年2019年は、国連子どもの権利条約採択30周年、日本国批准25周年に当たります。日本では今、毎日のように子どもが虐待により殺され続けており、孤立し絶望した若者による「無差別殺傷事件」が繰り返されています。2018年3月の船戸結愛ちゃん殺害事件や2016年7月、相模原の障害者施設「津久井やまゆり園」事件など「誰でもよかった殺傷事件」はほんの一例にすぎません。
③この事件を「精神障害者による特異な事件」としてはなりません。「障害者は生きていても意味がない」「障害者は迷惑だ」「障害者には税金がかかる」等という植松聖被告の主張は、ナチスドイツの優生学的思想と同じものです。日本でもインターネット上に「障害者不要論」が横行し、「在特会のヘイトスピーチ」が大音響街宣車を流し、西欧諸国でも難民受け入れ拒否が叫ばれ、ネオナチ党等の極右勢力が台頭しています。次々起こる事件は、そのような社会的状況の中で醸成されたものです。
④1939年ナチスドイツとソ連軍のポーランド侵攻、ドイツ領となったオシフェンチム市にアウシュビッツ強制収容所、ワルシャワ近郊にトレブリンカ強制収容所等を建設しました。そこへ、障害者、政治犯、ロマ(ジプシー)、ユダヤ人を次々大量に移送し、毒ガス等で殺した人数は、559万5千人とも
586万人とも言われています。今の世界は第一次・第二次大戦前夜と酷似しています。
⑤そのような中で2016年6月、日本の児童福祉法に「子どもの権利」「最善の利益」などの「子どもの権利条約」の理念が規定された意義は大きい。にもかかわらず、2017年8月、現実無視・当事者不在の「新ビジョン」が出され、2017年本格実施となった「課題と将来像」の職員配置増や子どもの大学進学、小規模ケアホーム促進等の実績を反古にし、福祉切り捨てが強行されようとしています。
⑥昨年9月、鳥取養育研究所のメンバーとカナダのオンタリオ州、トロントのアドボカシー(権利擁護)機関などを訪問しました。新ビジョンについてカナダのスタッフから、「日本の里親も施設もよくやっている。日本はカナダのようになってほしくない。権利行使の主体者としての当事者と共に歩む日本独自の闘う組織を作ってほしい」と言われ、連携することを確認しました。
⑦日本の社会的養護は慈善事業の時代から、制度があろうが無かろうが目の前の小さくされた生身の子どもたちに寄り添い続けてきたのであり、鳥取こども学園はその先頭に立ち続けてきました。今一度日本の民間キリスト教社会事業の原点に立ち帰りたいと願っています。私たちは、欧米の破たんした制度ではなく、「課題と将来像」の発展形態としての「日本型社会的養護」の構築を提案してきました。現場実践の積み上げの上に、当事者に寄り添い、当事者と共に創り上げたいと願っています。
⑧昨年6月、鳥取労働基準監督署から改善勧告を受けたことについて、私たちは、誠心誠意取り組み、昨年12月から定額残業制を導入し、1月から支払うこととした。この機会に就業時間の把握方法と時間外手当の支払い方法の改善を図った。元々、一ホーム5~6人の一般家庭よりも優れた家庭モデルを展開している施設のホームに労基法を適用するのには無理があり、私たちは厚生労働省に対して、労基法適用除外の制度改革を求めてきました。緊急の課題として引き続き求めたいと思います。
⑨病後児保育併設・法人内職員等保育所「とりっこらんど」の2019年4月開設を目指して急ピッチで工事が進められています。法人のスタッフ・職員は施設では子どもたちの共同生活者であり、家に帰れば、良き母であり良き父であります。子育てをするスタッフ・職員を24時間年中無休で支える「法人内保育所」「病後児保育所」を作ることとしたものです。内閣府の「企業主導型保育事業」制度を利用し、地域の方にも利用していただける保育所を目指したいと思います。
⑩超高齢化・少子化社会の到来は、加速度的に人手不足をもたらしています。改めて2019年を「鳥取こども学園創立の精神」である「キリストの愛(どんな人でも・特に最も小さくされた人ほど大切にする)」「大人も子どもも育ちあう」「利用者から学び共に考え共に進む」飛躍の年としたいと思います。弱さを誇り、生き生きと歩み利用者と関わり続けていきたいと願って新年の挨拶とします。
2019.01.08