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リレーブログ 第10回 「さとせん」のお仕事 乳児部 清水(里親支援専門相談員)

「今日は、初めてサトちゃんと会った日なんです。」。

 久しぶりに電話をかけてきたサトちゃんの里親、藤本さん夫妻の言葉です。私が覚えていたのは、サトちゃんの誕生日とサトちゃんが乳児部から藤本さんの家に引っ越しをした日でした。藤本さん夫妻にとっては、初めて出会った日がとても大切な記念日だったのですね。驚きました。そして、記念日が、決して藤本さん夫妻にとって楽しく、明るい未来を想像できるドラマチックな出来事ではなかったことも思い出しました。

 初めて藤本さん夫妻に出会ったサトちゃんは、手をつなごうと近づく夫妻から逃げだしました。それでも藤本さんが手を握ろうとすると振り払っていました。一緒にお散歩に出かけたのは良いのですが、藤本さんから距離をとり一人だけ先に先に歩いていきました。藤本さん夫妻に見えるサトちゃんは、後ろ姿か、ぷいっと視線をそらす横顔ばかり。まるで、「この人は知らない人!そんなに見ないで」、「私になれなれしくしないで」と言わんばかり手と手の態度でした。

 初めての出会いがこんな様子でしたから藤本さん夫妻のショックは相当のことだったと思います。こんなに邪険にされたら夫妻の心が折れてしまうのではとハラハラしましたが、夫妻は「また会いに来ます」と笑顔の即答でした。

 それからは、藤本さん宅での同居開始を目標にして、サトちゃんと藤本さん夫妻が出会う度に乳児部や子ども家庭支援センターのスタッフ、藤本さん夫妻とも何度も何度も話し合いを重ねました。学園周辺のお散歩から始め、地域の公園、ショッピングモール等々へと何度も何度もお出かけを重ね、やっと藤本さん宅への一泊お泊まりにたどり着いています。

 子どもの発達課程で愛着形成に重要でない時期はありません。サトちゃんのお世話をしている乳児部のスタッフには、サトちゃんが人見知りをすることは、喜ばしいことです。ですから、健康に成長しているサトちゃんのことを思うと、藤本さん夫妻との出会いの日、いわばマイナスからの出会いにこそ価値があり、サトちゃんと藤本さん夫妻の記念日として大事にしてくれていることがわかり嬉しく思いました。そして、半年以上の準備を重ねて、サトちゃんと御夫妻の生活が始まって、記念日が訪れています。藤本夫妻は、サトちゃんが「可愛くて可愛くて仕方ない」という風情です。サトちゃんもすっかり、藤本家の一員となってい姿を見るとこの仕事をしていて良かったと思えるのです。

 里親登録申し込みの後に養育里親基礎認定前研修で施設実習があります。先日、ご夫婦で里親登録を希望されている鈴木さんの実習を乳児部で受け入れました。子どもたちが人見知りすることを予想して、あらかじめ鈴木さん夫妻に心構えをしてもらいました。鈴木さんの腕に抱かれてすやすやと眠る子、もうこれ以上行けないという部屋の隅まで鈴木さんと距離を取ろうとする子、乳児部スタッフのそばから少しずつ離れて鈴木さんとかかわろうとする子など様々でした。実習を終えた鈴木さん夫妻の感想は、「人見知りをするものだとは聞いていたが、ここまでとは思わなかった。」、「想像していた施設、想像していた施設の子どもとは全く違った。」、「職員も子どももみな幸せな暮らしをしていることがわかった。」、「そんな子どもに、里親として何ができるのか考えると不安に思う」とのことでした。

 里親支援専門相談員の仕事を始めて、4年目を迎えました。子どもと里親との関係は、「縁」、「運命」、「相性」まかせにして語られるものではありません。適切な支援と子ども・里親・職員の創意工夫と努力によって、関係が成長・発展していくのであるということをサトちゃんと藤本さん夫妻から学びました。

 サトちゃんの気持ちを想像すると

 ◎「全力で拒否期」(あなたはだあれ? わたしになにをしようとしているの?)

 ◎「安心できる大人発見期」(わたしにわるいことはしないのだなぁ!)

 ◎「特別な存在発見期」(わたしのことをだいすきなんだ!わたしも、だいすき!)

 こんな感じではないでしょうか?

 私達のいままでのやり方は、子どもの注目を里親に向けるための方法として、それまでの養育者とのつながりを「切って」、そのつながりを里親に「つなぐ」という方法でしたが、うまくいったケースばかりではありません。

 「切って」、「つなぐ」やり方がなかなかうまく行かないのは、これまでの養育者と子どもが「つながっている安心」を切り捨ててしまうので、子どもは安心して新たな養育者を発見するのが難しくなるのではないでしょうか。「切って」、「つなぐ」のではなく大切な人との関係を「つないだまま」、「つなぐ」のが子どもにとって安心とともに里親を養育者として選ぶことが可能になるのだと思います。

 里親と「さとせん」やお世話をするスタッフは、子どもの安心や特別感を引き出す演出を一緒に考え、協力することが必要です。藤本さん夫妻には、サトちゃんとの関係を育む中でたくさんの葛藤があったことと思います。同じようにサトちゃんにも大きな葛藤があったのでしょう。この葛藤を受け止めながら子どもの気持ちを汲み取り、寄り添おうとするかかわりそのものが、子どもに伝わり、劇的な関係の成長をもたらしたのだと思います。手から手へ

 実習で初めて子どもの人見知りを経験した鈴木さんご夫婦も、近い将来、里親として別のサトちゃんと出会う日が来るでしょう。「さとせん」が出会い、見守ってきたサトちゃんと藤本里親の物語を伝えながら、子どもが里親を特別な存在として発見していく過程を応援したいと思っています。

 

 私たち里親支援専門相談員は、東部里親会や里親支援とっとりと協働して、里親制度の普及啓発活動に力を入れています。施設職員である私たちが里親を語ることは、支援を必要としている子どもたちのこと、その子どもたちの受け皿である施設の役割を語ることでもあります。施設と里親がいい協力関係を築いていくことは、子どもたちの未来の選択肢が広がることにつながると信じて、この普及啓発活動も続けて行きます。

皆様の御理解と応援をお願いします。(文中のお名前は仮名です。)

鳥取こども学園乳児部 里親支援専門相談員 清水暁子

里親制度のこと 里親支援とっとり


2015.06.24