理解と共感と言うけれど【後編】
里親支援とっとり 所長 遠藤 信彦
われわれの分野では、支援者は、よく『子どもの育ちとつまずきへの理解』とか、『想いへの共感』といったことを促されます。理解・共感など、漢字の熟語にすると、とても耳触りが良く素晴らしいことばですが、本質をとらえるのは、なまなかのことではありません。
先日、自閉スペクトラム症支援の専門家である、川崎医療福祉大学の重松孝治先生を講師に迎え、発達につまずきのある子どもへの支援について、オンラインスキルアップ研修を行いました。大きな学びがあったのはもちろんのこと、受講した里親さんと、その家庭の里子さんのご様子や、エピソードに感じ入るところがありました。事前と事後に勉強したことも含め、ほんのかけらだけ、理解し、共感できたように思います。
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講義の最後に、里親さんへのエールとしてこう締めくくられました。「発達につまずきを持つ子どもは変化が苦手です。そして、うまくいっている自分も、そうでない自分であっても、変わらず受けとめてくれる存在が必要です。子どもを取り巻く環境は、とりわけ人間関係は、年齢につれ急激に変わります。小さい時であれば受け入れられたはずの言動でも、小3を過ぎればまわりに許されなくなるかもしれません。里親さんだけは、毎朝変わらず、笑顔でおはよう、と言ってあげてください」とのことでした。
発達障害研究の先達は、例えば、興味のあることについてとても詳しく饒舌に語る子どもたちのことを「小さな教授」と呼んだハンス・アスペルガー博士であるとか、自閉症を持つ人々のための支援プログラムをアメリカから輸入するなど、児童精神科医としての活動のかたわら、保育園や幼稚園において『人を信じることができ、人から信じられるちからを持つ子どもに育てましょう』『支援する相手を感謝できる支援者だけが、相手から感謝されます』『良い人間関係においては、与えているものと与えられているものが違っていても価値が等しいのです。私は子育てをしていてとても幸せだった。なので、子どももそう思ってくれていると信じています』と説いた佐々木正美先生であるとか、どの方のことばにも、子どもたちへの深い愛情とリスペクトを感じます。このたびの重松先生のことばのはしばしにも、同じものを感じました。
発達につまずきを持つ子どもたちの、育ちと気持ちが本当に分かるには、僕はまだまだ勉強が足りません。こうした生のことばとエピソードを、腑に落ちるまで噛み締めながら、これからも里親さんとともに学んでいきます。
(この文章は、鳥取こども学園発行学園だより50号の原文です)
2022.02.01